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「研究の背景」の書き方

研究の背景の書き方は、論文のイントロダクションと同じで、より幅広い分野(一般的な背景)から自分の専門分野(狭い背景)へと誘導していきます。ここでは、最初の3つを扱います。

研究の背景・問題点では、以下を順に書きます。
1. 研究計画を含む広い研究領域の一般的な説明、重要性
2. 研究計画に関する狭い研究領域についての説明
3. 当該分野でこれまでどのような取り組みがなされており、その結果、何がわかっているのか
4. こうしたこれまでの当該分野における進展の中で申請者らはどこに貢献してきたか
5. こうした努力にも関わらず、未解決な点は何か
6. なぜそれは問題として残されているのか
7. その問題が解決されないと何が問題なのか、あるいは、それを解決するとどのような良いことがあるのか
8. どうすればそれを解決できると考えたのか、そのアイデアならば上手くいくと考えられる根拠は何か
9. それにより、どうなるのか
10. そのアイデアを実行する上での障害は何か

例えばこうです。

ウイルスは世界中のヒトの癌の15%~20%に関与すると考えられているため、ヒトの悪性腫瘍に関する共通メカニズムを明らかにするための重要なツールとなる。成人T細胞白血病・リンパ腫 (ATLL) の病因であるヒトT細胞白血病ウイルスI型 (HTLV‐1) はまさにそのようなウイルスであり、遺伝子発現や細胞増殖・アポトーシス、極性の決定を含む細胞内の重要な経路を調節する強力な腫瘍タンパク質Taxをコードしている。
 長年にわたり、Taxを用いた研究によりさまざまな細胞プロセスが明らかにされており、有効なモデル系であることが証明されてきた。Taxは細胞を形質転換し、種々のトランスジェニックマウスモデルで腫瘍を誘導することが示されており、申請者らもXXXをXXXすることで、XXXはXXXであることを明らかにしてきた[Suzuki et al., 2000]。しかし、こうした取り組みにもかかわらず、Taxが細胞を形質転換するメカニズムは十分に理解されていない。これまでに多数のTax変異体が生成され、それらの活性は主に細胞培養系で明らかにされてきたものの、利用可能なトランスジェニックモデルにおけるTax変異体の遺伝子導入位置やコピー数、発現レベルなどが多様であるため、Tax変異体の形質転換能の評価は困難であった。

この文章を例に、以下の3つのポイントを見ていきましょう。

ポイント1:より一般的な研究領域の重要性を簡単に述べる

ウイルスは世界中のヒトの癌の15%~20%に関与すると考えられているため、ヒトの悪性腫瘍に関する共通メカニズムを明らかにするための重要なツールとなる。

まず、自分の研究が含まれる一般的な研究領域(広い研究分野)の重要性を簡潔に示します。これにより、この領域が重要であることを示し、その一部を担っている自分の研究が重要であるということを間接的にアピールします。仮に、それほど重要ではない研究領域だと考えていたとしても(その場合、なぜその研究をしようとしているのかは疑問ですが)、少なくとも申請書の中では「この研究分野は重要である」という立場を貫き通す必要があります。

こうした本音と建前に違和感を覚え、歯切れの悪い文章を書く人もいますが、申請者本人が自信のない研究に対して支援する人などいません。指導教員などからテーマが与えられている場合は特に、まず、自分の研究領域の面白さを理解することを最優先させて下さい。研究歴が浅い場合は、研究領域の面白さに気づけないことがあります。あなたにとっては、ネジの研究は地味でつまらないかもしれませんが、NASAにとっては喉から手が出るほど欲しい技術かもしれません。繰り返しになりますが、多少無理があっても首尾一貫して研究領域の重要性を主張しないと話が始まりません。割りきってください。

しかし、重要性をアピールしすぎるのも考えものです。問題の重要性に対して、今回の研究計画がつまらない場合、逆効果になってしまいますので、あまり大風呂敷を広げずホドホドにすることも重要です。また、研究分野の重要性だけをアピールする方も多くいます。扱う分野が重要であることは必要条件ですが十分条件ではありません。重要な分野の研究であればどんな申請内容でも重要である、というわけではないことを理解しておいてください。

いきなり研究対象の説明を始めないこと。分野外の審査員にとっていきなり細かい話をされても何もわからずついていけない。まずは、その分野の重要性や研究することの意義などを明確にする。

ポイント2:対象にする具体的な研究領域の説明をする

成人T細胞白血病・リンパ腫 (ATLL) の病因であるヒトT細胞白血病ウイルスI型 (HTLV‐1) はまさにそのようなウイルスであり、遺伝子発現や細胞増殖・アポトーシス、極性の決定を含む細胞内の重要な経路を調節する強力な腫瘍タンパク質Taxをコードしている。

次に、なるべく自然な流れで、より一般的な背景から本研究に関わる具体的な背景(狭い研究分野)に話を持っていきます。直前のPOINTにも書いたように、ここから話を始める方が時々いますが、これは乱暴です。

広い背景も、狭い背景も長々と書く必要はありません。本研究を理解する上で最低限必要となる背景知識を過不足なく伝えましょう。いくら定番のイントロであっても本研究内容と直接関係しないのであれば、蛇足です。多すぎる情報は読み手を混乱させ、申請者が何に興味を持っているのかをミスリードさせます。総説や論文と違って、読み手はこの分野を網羅的に理解したいと考えていません。登場人物(登場する要素の数)を最小限にとどめ、なるべくシンプルなストーリーで背景を簡潔に説明します。

狭い背景を書く場合は特に誰に向けて書いているのかを意識することが重要です。読み手が一般読者であれば広い背景を長くして、狭い背景をかなり簡略化する必要がありますし、同じ研究分野であれば広い背景はごく短くして、狭い背景についても最小限の説明でも十分でしょう。学振や科研費の場合は、だいたい同じ分野で理解力はあるが専門的な知識はほとんどない審査員を想定しますので、広い背景よりも狭い背景を詳しめに書く方が良いでしょう。ただし、間違っても審査員に全てを伝えようとしないこと。厳密にはカラスには白色も灰色もいますが、「カラスは黒い」で十分ですし、温暖化の原因は二酸化炭素やメタンガス以外にも多くの要因があるでしょうが、その研究をするのであれば「温暖化ガスの増加は…」と書いておけば十分です。
全てを伝えようとしない。これ以上何が欠けても、申請書の大筋を理解することが困難となるギリギリまで簡略化する。評価対象はあくまでも研究計画であり、背景はそれを理解するための補助的な位置づけなので、余計なことは書かない。

ポイント3:これまでの研究の達成点を示す

長年にわたり、Taxを用いた研究によりさまざまな細胞プロセスが明らかにされており、有効なモデル系であることが証明されてきた。Taxは細胞を形質転換し、種々のトランスジェニックマウスモデルで腫瘍を誘導することが示されており、

これまでの研究で何が明らかになっているのか

本研究で明らかにしようとすることが、どのような意味を持つか(本研究の立ち位置)を明確にするためには、これまでの研究で何が明らかになっているかをはっきりさせておかないといけません。ここで何を書くかは重要で、研究展開のパターンごとに変わってきます。

これまでの研究を深堀りするパターン

これまでAAAについてBBBが明らかにされてきたが、今回はさらに精度を上げて(大規模に)BBBの理解を深める

のようなパターンの場合、BBBについて詳しく書くことが求められます。実はCCCやDDDについての研究も行われており、こちらでも一定の進捗がある、みたいなことを書いたところであまり役立ちません。

これまでの研究とは全く違う視点を持つパターン

これまでAAAについては、BBBやCCC、DDDといったアプローチがなされてきたが、それらには問題があったので、今回はEEEをする

のようなパターンの場合、BBBだけの説明では不十分です。ひとつひとつは簡単でも良いので、多くのアプローチがあったことを書く必要があります。

2つ以上のものごとを融合するパターン

これまでAAAについては、BBBとCCCのアプローチがあり一長一短であった。今回はそれらを融合することで、より良くする

のようなパターンの場合は、BBBとCCCについてそこそこ詳しく書く必要がありますが、DDDなど別の方法をあえて登場させる必要はありません。

 

これら以外のパターンも考えられますが、「明らかになっていること」を示すのは、それが申請する研究の起点であるということを示すためです。それを利用しても利用しなくても良いのですが、その続きから研究を行なうという意図で書いてください。意図もなく網羅的にこれまで明らかにされたことを書くと、申請者が何をしたいのかがボヤケてしまいます。

ここでも、審査員に全てを理解してもらおうとしない。この分野に興味のない審査員は、長いとそれだけで読む気が失せるので、最低限理解しておいてもらいたいことに絞りシンプルに伝える。
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