「何をするか」だけでは、申請書は評価できません。「なぜ」「いま」「あなたなら」「これまで解決できなかった問題を解決できる」と主張するのでしょうか?特色・独創的な点はそうした質問に対する答えを与える場所です。
申請書 上部の注意書き
科研費:
冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ、(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、(5)本研究の目的を達成するための準備状況、について具体的かつ明確に記述すること。本研究を研究分担者とともに行う場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割を記述してください(若手には記載なし)。
学振:
① 特別研究員として取り組む研究計画における研究目的、研究方法、研究内容について記入してください。
② どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのか、具体的に記入してください。
③ 研究の特色・独創的な点(先行研究等との比較、本研究の完成時に予想されるインパクト、将来の見通し等)にも触れて記入してください。
④ 共同研究の場合には、申請者が担当する部分を明らかにしてください。
⑤ 研究計画の期間中に受入研究機関と異なる研究機関(外国の研究機関等を含む。)において研究に従事することも計画している場合は具体的に記入してください。
書き方の解説
「これまでなされていないこと」をするから独自である、
はダメ!
すごく頻繁に見られる構文ですが、よくありません。必要条件と十分条件をしっかりと理解しましょう。
必ずしも真ではない:これまでになされていない →(ならば) 独自である。
研究の特色・学術的特色
特色:特徴、他と特に異なっているところ、他のものより優れているところ
≒独自性・先進性・優位性・高い実現可能性・(発展性)など似たような内容の研究であるなら、優れている方が採用されます(当然ですよね)。では、「優れている」とはなんでしょうか?それは、他の人にはない材料、装置、データであったり、技術や実績、アイデアまたはそれ以外なのかもしれません。いずれにせよ、他の研究計画よりも、あなたの研究計画の方が優れていること・採用に値することを審査員に伝える必要があります。それを示す場所が研究の特色です。
ほぼ「特色」と同じと考えて構いません。独自性をオリジナリティと読み替えても良いでしょう。「すぐに手に入るものは価値がない」 誰もが利用できる課題を誰もが思いつくような手法で解決できるのであれば、とっくの昔に誰かに解決されているはずです。ということは現在未解決のまま残されている問題は以下の3つのどれかです。
(1)問題の重要性は多くの人が気づいていたが、それを解決する手段・アイデアが無かった。
(2)本当は重要な問題であるにもかかわらず、これまで誰もその問題を認識していなかった。
(3)実はその問題は重要ではないので、解決する方法はあるがあえて誰もしてこなかった。
さて、あなたの研究計画はどれでしょうか?もちろん、(1)か(2)だと主張したいところですが、なぜそう言えるのでしょうか?それを書いてください。
- これまでの多くの研究は○○○の○○○動態や○○○解析が中心であり○○○に着目した研究例はない。本課題は、○○○によって○○○を分類し、申請者が考案した独自の方法により○○○の特徴を新たに見出す点で新しい。
- ○○○を○○○しようとする試みはこれまでほとんどなされてこなかったが、これまでに見逃されてきた○○○を申請者が世界に先駆けて開発した○○○により解析する本研究の独自性は大きい。
- こうした○○○の研究は、○○○の研究分野内だけでなく
- ○○○を用いて○○○を○○○するシステムは、本研究室が独自に開発したものであり、知見の蓄積および取り扱い技術などあらゆる点で世界をリードしている。
研究の創造性
≒インパクト、影響力、意義、クリエイティビティ研究計画に創造的であることを求める背景には「自分の研究を進めるだけでなく、自分の研究分野の他の人の研究や将来の研究の方向性に良い影響を与えたり、周辺関連分野の研究に良い影響を与えたり、社会に良い影響を与えたりする研究は価値が大きい」という考え方があります。つまり、この研究で自分の研究だけでなく、他の研究や社会にも影響を与える研究は一粒で二度美味しいので優先的に採用しましょう。ということです。
「想像力・クリエイティビティ・ひらめき」のような申請者の能力を問うているのではなく、この研究計画が他の研究の創造・発展にどう貢献しうるか、を問うています。
当該研究分野へのインパクト
- ○○○の応答がどの臓器で起こっているかを明らかにする本研究により、○○○が明らかにされれば、これまで意見が別れていた○○○について答えを与えることができると期待される。
周辺関連分野へのインパクト
- 本研究により、○○○を分子生物学的な知見から説明ができるようになると期待され、このことは、○○○の製造法や○○○の育種にもつながる。
- 本研究で開発するを測定法は、○○○だけに留まらず、その他の○○○の測定にも利用可能であり、今後、○○○など様々な分野への適用も見込める。
社会へのインパクト
- 本計算コードは、○○○から○○○に至るまで幅広いスケールで○○○の物理を解明するための強力なツールとして、○○○での活用が期待できる。
- 本研究は、これまで曖昧にされてきた○○○の○○○機序を解明するものであり、 ○○○を確立するための基礎的な研究となる。
書き方例
1.F. virguliformeのダイズ根組織への侵入様式の特定(研究計画の見出し)
Fvの感染成立後のシグナル伝達経路については理解が進んでいる一方で、感染成立に至る過程はほとんど理解されていない。(研究背景のリマインド)
そこで、Fvのダイズの根への感染プロセスの時系列的な記述するため、GFPで蛍光ラベルしたFvをダイズの根に感染させ蛍光量から感染成立に至るまでの初期過程を明らかにする。(何を目的とするのか)
まず、F. virguliformeの蛍光株の作製する。次に、蛍光顕微鏡を用いてダイズの根における付着器の形成を確認する。さらに、根における時系列RNA-seqにより、感染に伴う遺伝子発現パターンの変遷を明らかにする。(具体的に何をどうするのか)
申請者はすでに、いくつかの機能的な蛍光株の作出に成功しており、速やかに実験を開始することが可能である。(予備データ)
2.葉面SDS症状を誘発するFvTox1およびFvNIS1と相互作用するタンパク質の同定(研究計画の見出し)
Fvの感染成立後のシグナル伝達経路については理解が進んでいる一方で、感染成立に至る過程はほとんど理解されていない。(研究背景のリマインド)
そこで、FvTox1およびFvNIS1と相互作用するタンパク質のうち葉面SDS症状の誘発に関わる因子の同定するため、FvTox1およびFvNIS1を根で特異的に発現させそこから抽出したタンパク質を解析する。(何を目的とするのか)
具体的には、まず、fvtox1およびfvnis1変異体の病原性の低い表現型を確認し、次に、FvTox1とFvNIS1に蛍光マーカーを付加する。さらに、共免疫沈降法とLC-MS、酵母ツーハイブリッド法を行うことで、相互作用する可能性のあるタンパク質を同定する(図2)。(具体的に何をどうするのか)
仮に本研究がうまくいかない場合は、アルファスクリーンなど別の方法を試すとともに、すでに結合することが示されている因子に対象を絞って以降の解析を行う。(うまく行かない場合の対応)
1 研究目的、研究方法など 本欄には、本研究の目的と方法などについて、3(4)頁以内で記述すること。冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、について具体的かつ明確に記述すること。(本研究を研究分担者とともに行う場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割を記述すること。)
学振版の特色・独創性(現在までの研究、これからの研究計画)とは、頭を切り替えて書いてみたいと思います。内容的には通じるものがあるので、そちらも参考にしてみてください。
学術的独自性
学術的独自性というからには学術的ではない独自性も存在します。それはどんなものでしょうか?
銅鉄実験とは「銅で明らかにされたことを鉄に置き換えてやってみる」ことであり、オリジナリティが低い代表例として扱われます。これまで誰も鉄を使ってやってこなかったのですから、独自(オリジナリティがある)と言えなくもないでしょう。しかし、それがつまらないことであるならば、そんな独自性はあってもなくても同じ、学術的に大した価値は無いとなります。同様に、「わかっていない・なされていない」ことだけが独自性の根拠であるならば、その独自性に学術的な価値があるかどうかは怪しくなってきます。
- 研究が大きく前に進む・研究の方向性を変えうる
- 物事を違った側面から見ることを可能にする
- 新たな価値が創造される
など、研究または社会に対して何かしらの影響を与える独自性すなわち、重要な問題(解くべき問題)に取り組むことを可能にするあなたならではのアイデア等を書かないといけません。
どんな研究分野においてもスタンダードな研究アプローチは存在します。AAAをして、BBBをして次にCCCをする…… しかし、そこに独自性はあるでしょうか?誰もが思いつく材料を誰もが思いつく方法で、誰もが思いつくように研究するのであれば、「あなた」がそれをしないといけない理由はありません。
研究材料の独自性
スタートする材料が違えば他の人とは違う研究になり得ます。申請者らだけが扱える高機能材料や研究室が長年蓄積してきたデータベースのような他の人が真似したくてもできないようなもの、あるいは、世界にさきがけて扱っているモデル生物、のような他よりも先に進んでいるものが考えられます。こうしたものを扱うこと(扱えること)は新しい発見の可能性を高めるという意味で研究の独自性と言えるかと思います。
ただし、銅鉄実験のような研究の材料を取り換えただけ系の研究もここに含まれてしまいます。それらがとの違いは、そうした材料を扱うことの重要性に尽きますので独自であるという主張においてなぜこの材料が重要なのかについての説明は欠かせません。新しいものを扱うから独自なのではなく、重要であるにもかかわらず多くの人が扱えない(扱えなかった)から独自なのです。
研究手法の独自性
測定装置が他にはない、申請者が考案した・改良した方法である、AAAとBBBを組み合わせることでCCCが可能になることを見出した、など研究手法が独自であれば、材料と同じくやはり真似できなくてもできません。
そして、これも材料の独自性と同じく、新しい手法を使うから独自なのではなく、それによって重要にもかかわらずこれまでは挑戦することすら不可能な問題に取り組めるようになるから独自である気を付けましょう。微妙な違いのように感じるかもしれませんが、前者はしょうもない手法であっても独自であるということになってしまいますので(利き手と逆でXXXする技術)、申請書に書く際はあくまでも後者の立場から書くようにしましょう。
研究の位置づけの独自性
真似しにくい独自性としては、大規模・網羅的である、ハイスループットであるのような、お金をかけてゴリゴリと進める大規模研究です。これには材料の独自性も手法の独自性もいらず、誰よりも先に誰よりも大規模にすることに価値があります。
しかし、材料もありきたりで独自技術もなく、大規模にもできない場合がほとんどでしょう。こうした場合にもっとも個人がやりやすいのは物の見方を変えること、すなわち、研究の位置づけ・意味づけを変えてしまうことです。
のような感じですね。
学術的創造性
創造性は意味を勘違いされやすいので注意が必要です。申請者の独自の発想で生み出された研究(創造的)でも、この研究が進むことにより将来、AAAはBBBになると期待される(インパクト)でもありません。
研究のインパクトがかなり遠めの未来を見据えているのに対して学術的創造性はもう少し近い未来を見ています。また、研究のインパクトは複数の分野を統合し収束する形で達成されるのに対して、学術的創造性は自分の研究分野への適用や関連分野への適用など、むしろ発展する形で達成されます。
当該分野に対する創造性
創造性とは新たな価値を生み出すということです。本研究が完成した時、自分の研究を含む研究分野にどのような価値をもたらすことができると考えていますか?ということです。
など、自分の研究分野においてどのような価値を創造するかを書けばよいでしょう。
周辺関連分野に対する創造性
真に価値のある研究は、より広い分野に影響を与えます。あなたの研究成果は周辺の研究分野に対してどのような影響をもたらすでしょうか?
のように成果がいろいろなところで使いまわせれば、より多くの価値を生み出しますので創造的な研究であるとなります。