これまでに書いてきた研究の背景は、研究計画の内容を理解し評価するために必要な最低限の情報であり、こここそが申請書の核心部です。審査員を説得するためには、何を・どうするかだけでは不十分で、なぜするのか、何をもって成功と定義するのか、うまく行かない場合はどうするのかなど、あらゆる観点から説明し、十分に計画されたものであることを印象づける必要があります。
申請書 上部の注意書き
科研費:
冒頭にその概要を簡潔にまとめて記述し、本文には、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ、(4)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、(5)本研究の目的を達成するための準備状況、について具体的かつ明確に記述すること。本研究を研究分担者とともに行う場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割を記述してください(若手には記載なし)。
学振:
① 特別研究員として取り組む研究計画における研究目的、研究方法、研究内容について記入してください。
② どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのか、具体的に記入してください。
③ 研究の特色・独創的な点(先行研究等との比較、本研究の完成時に予想されるインパクト、将来の見通し等)にも触れて記入してください。
④ 共同研究の場合には、申請者が担当する部分を明らかにしてください。
⑤ 研究計画の期間中に受入研究機関と異なる研究機関(外国の研究機関等を含む。)において研究に従事することも計画している場合は具体的に記入してください。
書き方の解説
「研究方法・研究内容」の流れ
- 研究計画の見出し
- 研究背景のリマインド
- 何を目的とするのか
- 具体的に何をどうするのか
- 予備データ
- うまく行かない場合の対応
- どうなれば研究は成功したと言えるのか
- 成功したら、研究目的のどの部分を達成することにつながるのか
研究計画の見出し
一直線の研究ではなく、別の話が並行して進むような場合は、全体の関係がわかるような図を入れても良いでしょう。
(2)研究内容ごとに項目を分かる場合
いつ、それをするのかを示したければ、「初年度は…」のような時期が分かるような言葉を入れるか、末尾にガントチャートを載せるなど、工夫してください。体言止めで終わるような見出しが良いように思います。
本文と見出しは視覚的な区別を容易にするため、本文を明朝体で、見出しを太字のゴシック体にするのが基本です。
- ○○○が○○○に与える影響の検証
- ○○○を用いた○○○の開発
研究背景のリマインド
- ○○○により○○○の機能が失われ、○○○が引き起こされる。本計画では、…
- ○○○では、○○○のためには○○○をしなければならない。そこで本研究では…
- 申請者はこれまでに○○○が○○○であることを明らかにしてきた。これをもとに…
何を目的とするのか
- ○○○が○○○であることを示すため、…
- ○○○に関わる○○○を網羅的に同定するため、…
具体的に何をどうするのか
- ○○○を用いて、○○○ を用いた詳細な観察から○○○障害を解析する。特に、○○○による局在評価から、○○○障害の特徴を明らかにする。
- ○○○を0から0.1まで変化させて○○○の変化を調べる。また、○○○を変化させることで、○○○が○○○するかを検討する。
予備データ
- 実際、予備的ながら申請者はすでに○○○が○○○であることを見出しており(図3)、…
- すでに○○○については同定していることから、本研究では、○○○を○○○する。
うまく行かない場合の対応
また、バックアッププランとして書かれている内容が全然バックアップになっていない例も多く見られます。
- 仮に○○○がうまく行かない場合は、○○○を行う。
- ○○○が得られない場合でも、すでに得られている○○○で代用可能である。
- ○○○である場合には、○○○を試すとともに、○○○についても挑戦する。
どうなれば研究は成功したと言えるのか
- これにより、○○○が○○○であれば、○○○と判断し、○○○する。
- ○○○では、○○○件について調べていたことから、少なくともそれ以上の十分な数について調査を行う。
- F値が0.8以上であれば、実用に耐えうると判断し、これを用いて以降の研究を進める。
成功したら、研究目的のどの部分を達成することにつながるのか
- これらの実験を通じて、○○○においても○○○が可能であることを実証する。
- これまで○○○の研究は○○○と○○○のそれぞれの観点から実施されてきた。これに対して本研究は、申請者が明らかにした○○○を用いることで、○○○と○○○を統合する。
- これにより、○○○のための基盤となる○○○の構築を行う。
書き方例
1.F. virguliformeのダイズ根組織への侵入様式の特定(研究計画の見出し)
Fvの感染成立後のシグナル伝達経路については理解が進んでいる一方で、感染成立に至る過程はほとんど理解されていない。(研究背景のリマインド)
そこで、Fvのダイズの根への感染プロセスの時系列的な記述するため、GFPで蛍光ラベルしたFvをダイズの根に感染させ蛍光量から感染成立に至るまでの初期過程を明らかにする。(何を目的とするのか)
まず、F. virguliformeの蛍光株の作製する。次に、蛍光顕微鏡を用いてダイズの根における付着器の形成を確認する。さらに、根における時系列RNA-seqにより、感染に伴う遺伝子発現パターンの変遷を明らかにする。(具体的に何をどうするのか)
申請者はすでに、いくつかの機能的な蛍光株の作出に成功しており、速やかに実験を開始することが可能である。(予備データ)
2.葉面SDS症状を誘発するFvTox1およびFvNIS1と相互作用するタンパク質の同定(研究計画の見出し)
Fvの感染成立後のシグナル伝達経路については理解が進んでいる一方で、感染成立に至る過程はほとんど理解されていない。(研究背景のリマインド)
そこで、FvTox1およびFvNIS1と相互作用するタンパク質のうち葉面SDS症状の誘発に関わる因子の同定するため、FvTox1およびFvNIS1を根で特異的に発現させそこから抽出したタンパク質を解析する。(何を目的とするのか)
具体的には、まず、fvtox1およびfvnis1変異体の病原性の低い表現型を確認し、次に、FvTox1とFvNIS1に蛍光マーカーを付加する。さらに、共免疫沈降法とLC-MS、酵母ツーハイブリッド法を行うことで、相互作用する可能性のあるタンパク質を同定する(図2)。(具体的に何をどうするのか)
仮に本研究がうまくいかない場合は、アルファスクリーンなど別の方法を試すとともに、すでに結合することが示されている因子に対象を絞って以降の解析を行う。(うまく行かない場合の対応)